焼きそば2つ (#57 wise)
ねぇ、honey達。
ここ最近の荒川区は凄く涼しいんだけど、どうなんだい?
夏ってのは突然去っていくよね
良い女みたいだよね?だけどズルい女だよ。
まだ残暑が続くだろうけどね。
wiseは夏に必ず思い出す事がある
wiseの生まれ故郷の隣町、埼玉県の熊谷市に『うちわ祭り』という、かなりデカイ祭りがあるんだ。
高校生の時に友達何人かで行った時の話さ。
カワタ君・ナガイ君・サカモト君そしてwiseの4人だった。
祭りと言えば、どこからともなく現れて莫大な人数が集まる
ヤンキー
彼らの存在が醍醐味。醍醐味というより彼らが祭りを盛り上げているとも言えるよね。
一般の人達からしたらビクビクしながらの祭りになってしまうけど、きっと彼らがいなかったら味気ないものになるとwiseは思うんだ。
彼らは純粋に祭りが好き
だからね。
ただ当時のうちわ祭りは、なんだか良くわからないが
2つの大きなヤンキーグループが必ず大乱闘をする
という、困った伝統があったんだ。
とにかく男子高校生ってのは1番ヤンキーに目をつけられやすい。
wiseの一味もヤンキーに気をつけながら楽しんでいたんだ。
wise一味の中のカワタ君
彼には伝説が多すぎて、いつかは語りたいとは思っている。
今回必要な情報としては、彼は漫画『浦安鉄筋家族』をバイブルとしており、中でも
春巻 龍先生
というブルース・リーをオマージュしたキャラクターに影響を受けていた。
春巻先生は語尾に『〜だチョー』等が付く。
カワタ君は日常会話をこれで話すのだ
wiseと2人で電車に乗っていた時、何やら
「フムフム、、サモハーン。ウー、、フォアチョー。」
等と呟きながら20分くらいwiseを見つめ続けた。その間会話は一切無し。
最後にやっと放った言葉が
『犬みてーな顔してるチョー』
だった。
そんな変わった男だった。
完全に日が暮れて、祭りも最高潮に達していた。
するとカワタ君が、
「腹減ったし少し疲れたチョー。」
と言うので、一味はそれぞれタコ焼き等を買い、メインの通りを外れ裏通りに入った。
そしてちょうど良い感じの大きめな公園があったので、そこで一休みしながら食事をする事になったのだ。
真っ暗な公園だった
食事を終え、他愛のない話をしていると公園の入り口の方から「ザッ、ザッ」と足音が聞こえてきた。
1人の人物がゆっくりとこちらに向かって来ているようだ。
ちょうど街灯による逆光で、シルエットしか見えない。体つきで男性という事がかろうじて分かるくらいだった。
するとカワタ君が、なかなかの声量でこう言い放った。
「焼きそば2つ持って来るオッさんが来るチョー。」
確かに両手に何かを2つ持っているようだ。大きさも焼きそばのパックくらい。
さらに祭りの方角から来たという事で、カワタ君は『焼きそば2つ』と判断したんだろう。
なぜオッさんと判断したかは、現在も謎に包まれている。
こんな感じだった
カワタ君の言葉に反応するかのように、その人物は少し足早になって向かってくる。
近づいてくるにつれ、逆光の影響も薄れてきた。
そして姿が露わになった
wise一味は自分達の不幸を呪った。もちろんカワタ君の事も呪った。
honey達、御察しの通りです。
ゴリゴリのヤンキー
だったんだ。
更に恐ろしい事に、手に持っていたのサムシング。それは
焼きそば2つ
なんかじゃない
レンガ2つ
目を疑うって言葉あるよね?あれ、みんな本当は疑ってないだろ?だって目だぜ?
あの日wiseは本当の意味で目を疑ったんだ。
日常生活を送っていてレンガを2つ持つ事なんて、年に1度とないよね?
レンガ。それは3匹の子ブタの話で、狼がいくら頑張って息を吹きかけても吹き飛ばすことのできない代物だ。
ヤンキーとレンガ
その組み合わせが意味するもの、圧倒的な暴力。それ以外に意味するものなど無い。
wiseは今から自分の身に降りかかろうとしている地獄を想像していた。
すると、wiseの耳にカワタ君の声が飛び込んできた。
「やべーチョー!」
彼はそう叫び、反対方向へ走り出していた。
こんな状況でも春巻先生で言葉が出る。完全に頭に染み込んでいるのだろう。
wiseもすぐに立ち上がり、走った。こんな状況なのに
B’zのRUNが頭の中で流れていた
荒野を走れ
どこまでも
冗談を飛ばしながらも
人はピンチに陥ると、頭が変になるんだろうね。もちろん冗談は飛ばせなかった。
すごく不思議だよね?
走りながら一度だけ振り返ったら、逃げ遅れたナガイ君が宙を舞っていた。
レンガで殴られて舞ったんだ
まるで静止画だった
wiseが振り向いた一瞬だけだったから。
1枚の写真の様に脳裏に焼き付いている。
一時期はそんな写真があったんじゃないか、と勘違いしていたくらいさ。
ナガイ君がレンガで殴られて宙を舞っている写真なんてあるわけがないのに。
その後の事はよく覚えてないけど、全員が散り散りになって逃げたから、そのまま帰宅した。
その頃は誰もが携帯電話を持っている時代ではないからね。
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