歌舞伎人間 (#106)
wiseが山梨県から東京に上京してきた頃に体験した、
奇妙な話
をしよう。
調布市つつじヶ丘
に住み、1ヶ月以内の出来事だったと記憶している。
明大前駅で京王井の頭線に乗り換え、ヤングでヒップな渋谷に向かっていた。
車両はかなり混雑しており、ギュウキュウな状態だった。
wiseはちょうど車両の真ん中くらいに立っていた。
すると、突然こんな声が聞こえてきた。
『いよぉ〜ぉ。下北沢ぁ〜。』
かなり大きな声だ。その声量・揺らぎ・抑揚、wiseは瞬時に悟った。
歌舞伎だ
歌舞伎の掛け声だ
と。
なぜだ?電車の中で歌舞伎?いったいどこから聞こえてくるんだ?
wiseの頭は混乱した。そしてwiseを何より混乱させたのは、周りの人間達の反応だ。
その掛け声にビクッと反応し、周りを見回したのはwise独りきりだったんだよ。
"まさかwiseにしか聴こえていないのか?"
聴こえないはずはない声量。しかし、周囲の人間達はまったく気にしていない様子で暮らしを送っているではないか。
東京は他人に無関心と聞いていたが、こんな事象に対して無関心だったら一体何に関心を持つって言うんだい?
その間も歌舞伎人間は叫び続ける。
『いよっ!しもーきたーざわぁー!いよぉー!12代目!!』
どんどんヒートアップしている。
車掌さんの役割を担った歌舞伎人間なのか、次の駅を確実に教えてくれる
姿が見えないだけに、想像を掻き立てる。wiseの想像上の歌舞伎人間は激しく体を動かしながら叫んでいる。
とにかく姿を確認したい
wiseは車両の中では背が高い方。目視できる限りの立っている人間の中にはいないはず。声の飛んでくる方向から考えて、連結部分近くの優先席に座っていると推測した。
満員電車だから近づく事は不可能。頑張って背伸びをしても見えない。
『次はぁー!渋谷ぁー!いよっ!しぶやぁあ!』
やはり次の駅を教えてくれる。
もはや車掌さんの仕事の割合が増えてきている
文字だから伝わりづらいけど、やはり調子は歌舞伎。
渋谷は終点だから早く確認しなければ。
『いよっいよっいよぉ〜お!!!しーぶーやぁ〜!!!いよーーーお!!!成田屋!!!12代目!!渋谷!!』
教えてくれた通り渋谷に到着。その瞬間の高揚感は見事なものだった。
空気を震わせ、歌舞伎人間の声だけでヒップなグルーヴを作り出していた。
極上のJazzにも通じるものがあった。
グレンミラー楽団の演奏を生で聴けたら、こんな感覚だったんだろう。
プシューとドアが開き、人の流れに文字通り流された。目線だけを車内に残しながら。
honey達には本当にすまないと思っているが、結局
歌舞伎人間の姿をを確認する事は
できなかったんだよ
あれは何だったのか?当たり前だけど10年経っても謎。歌舞伎人間の謎は墓場まで持っていくんだ。
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